「今は仕事がある。でも、この仕事を数年後も同じ値段で受けられるだろうか」。AIのニュースを見て、そんなことを考える経営者は少なくないはずです。社員の作業が楽になるのは歓迎したい。一方で、お客様まで同じ道具を使い始めたら、自社へ依頼する理由が薄れるのではないか。その心配は、社内でAIを使うかどうかだけでは片付きません。

受注が減ってから動くのでは遅い気がする。かといって、今の事業を急に変えるわけにもいかない。本業が回っている経営者ほど、次の一手を決める時間が取れず、不安だけが残ることもあるでしょう。

まず考えたいのは、「どの業種がAIに奪われるか」という大きな予測より、自社の売上が何に対して支払われているかです。この記事では、現在の受注内容を見直すところから、本業の改善と別の収益源への備えを、どう分けて考えるかを整理します。

怖いのは、仕事がなくなることだけではない

AIの影響というと、ある日突然、依頼がゼロになる場面を想像しがちです。しかし経営上は、仕事が残っていても利益が減る状況に注意が必要です。お客様が下準備を自分で済ませるようになり、依頼される範囲が狭くなる。以前は一式で請けていた仕事が、確認や修正だけになる。そうした変化も、売上の中身を変えます。

たとえば、資料制作を請け負う会社を仮に考えてみます。構成案から作っていた案件で、お客様がAIで用意した原稿を持ち込み、「見た目だけ整えてほしい」と依頼するようになったとします。件数が同じでも、受注単価は下がるかもしれません。その一方で、原稿の矛盾や不足を直す作業が増えれば、担当者の負担は軽くなりません。

これは特定企業の実例ではなく、受注の変化を考えるための例です。「仕事は来ているから大丈夫」と件数だけを見ていると、売上と手間の関係が変わったことに気付きにくいのです。見積額、追加修正、担当者の作業時間を一緒に見ると、漠然とした不安を検討できる問題に変えられます。

直近の請求書から、自社が選ばれる理由を探す

最初から全社の事業戦略を作り直す必要はありません。まずは直近の主な案件を並べ、「お客様は何を任せるためにお金を払ったのか」と考えてみてください。請求書の品名を読むだけでは足りません。同じ「制作費」「調査費」でも、実際に求められた役割は異なるからです。

完成品を早く作ることが評価された案件もあれば、条件を整理して、何を作るべきか決めるところが評価された案件もあるでしょう。関係者の意見が割れたときの調整、現場でしか分からない制約の確認、納品後に問題が出た際の対応まで含めて頼まれている仕事もあります。

次の三つを、一件ごとに短く書くと整理しやすくなります。

  • お客様が自社で済ませられるようになると、依頼が減りそうな作業は何か。
  • 道具が変わっても、お客様が判断や対応に困りそうな箇所はどこか。
  • その困り事を引き受ける費用が、現在の見積もりに含まれているか。

最後の問いは大切です。丁寧な調整や確認で選ばれているのに、それをすべて無料の付帯作業として扱っている会社もあるはずです。作る作業だけが価格の根拠になっていれば、作業が速くなるほど値下げを求められやすくなります。自社の強みを言葉にするだけでなく、契約範囲と見積もりにも表れているかを確かめたいところです。

AIを導入すれば、売上の不安も解決するのか

社内でAIを使い、作業時間を減らすことには検討する価値があります。ただし、作業が速くなることと、お客様がこれまで通り発注してくれることは、別々に確認する必要があります。自社の効率が上がっても、顧客側で内製化が進めば、受けられる仕事の範囲は変わるからです。

IPAの「AIの利活用、AIによるDXの推進」でも、AIは文書の要約や生成など、さまざまな活動を支援する技術として紹介されています。経営者としては、その道具を自社だけが使える前提で計画を立てない方がよいでしょう。お客様や競合も使う状況を想定して、依頼される理由を考える必要があります。

社内で試すなら、「何のツールを契約するか」より先に、減らしたい作業と、減らせた時間を何へ振り向けるかを決めます。下書きが速くできても、確認と修正に同じ時間がかかるなら、採算は改善していません。逆に、定型作業が短くなり、お客様との打ち合わせや品質確認に時間を使えるなら、受注を守るための使い方が見えてきます。

操作を覚えることだけが経営者の仕事ではありません。現場の担当者と、どの作業が減り、どの確認が残り、顧客の満足が何で決まるかを共有することも、導入の判断に欠かせません。

「別の事業を持てば安心」と急がない

本業の先行きが気になると、違う業種へ投資したくなるかもしれません。ところが、業種名を変えただけでは、同じ影響を受けることがあります。本業も新しい事業も、似た顧客の広告予算や外注予算に頼っていれば、その予算が縮むと両方の売上が落ちる可能性があるためです。

別の収益源を考える際には、「誰がお金を払うか」「何を買うために払うか」「なぜ自分では済ませられないか」を並べてみます。本業との違いは、商品名より、この三つに表れます。同じお客様でも別の困り事に応える方法はありますし、違うお客様でも同じ価格競争に巻き込まれる事業はあります。

もう一つ確認したいのは、経営者本人の時間です。本業を守るために営業や商品設計を見直す時期に、新しい店舗の採用や仕入れまで抱えれば、両方が中途半端になりかねません。新規事業の計画には、初期費用だけでなく、毎月誰が何をするか、判断を求められる頻度、うまくいかないときの対応も書いておく必要があります。

不安を消すことだけを目的に契約すると、始めた後で「こんなに自分が動くとは思わなかった」と感じるかもしれません。本業の改善に使う時間と、新しい取り組みに使える時間を先に分ければ、無理のある計画を見送りやすくなります。

WEBメディアにも、AIの影響はある

店舗や在庫を抱えない事業として、WEBメディアを候補にする考え方もあります。ただし、「AIが心配だからWEBへ移れば安全」とは言えません。情報を扱う事業だからこそ、読者が情報を得る手段の変化や、似た内容の増加を考慮する必要があります。

一般的な説明を並べた記事を大量に用意すれば、安定した収益が生まれるという前提では判断できません。読者がどんな判断で迷い、どの情報を確かめたいのか。その情報にたどり着いた後、広告主や提携先へどんな行動がつながるのか。読者の役に立つことと、収益が発生する理由を、両方説明できる計画が必要です。

たとえば、製品の仕様を紹介するだけのページと、使用条件によって選び方が変わることを整理するページでは、読者が求めるものが違います。しかし後者なら必ず成功する、という話でもありません。情報の確認方法、更新にかかる手間、集客経路、広告や提携の条件まで確認して、初めて事業として比べられます。

依頼先を選ぶ際にも、制作する記事数だけで判断せず、誰から売上を得る計画なのか、運営後に何を見て修正するのかを聞きたいところです。AIへの不安から始める検討であれば、新しい事業にも同じ問いを向ける必要があります。

今月できるのは、不安を三つの確認事項に変えること

将来の予測を読み続けても、自社で何をするか決まらなければ、不安は残ります。今月は、まず一つの主要サービスについて、受注の変化と採算を確認してみてください。売上全体を細かく分析する前に、最近見積もりの説明が難しくなった案件や、値下げを求められた案件を選ぶ方法でも構いません。

次に、お客様が社内で何をするようになったかを、通常の打ち合わせで確かめます。「AIを使っていますか」だけではなく、「以前こちらへ依頼していた準備のうち、今は社内で進めているものがありますか」と尋ねれば、業務の変化を聞きやすくなります。依頼がなくなるかどうかを直接聞くより、今任されている仕事の輪郭をつかむことが先です。

そのうえで、次の三つを紙一枚にまとめます。本業の中で変えること。まだ判断できず、確認が必要なこと。本業以外の収益源を検討する場合の予算と時間です。すべてを一度に実行する必要はありません。どこまでなら今の事業を守りながら試せるか、線を引くための整理です。

「今は大丈夫」と放置することも、不安に押されて高額な契約をすることも、避けたい判断です。現在の利益や手元資金に余裕があるなら、その余裕を何に使うかを考えられます。受注が減った後では、同じ選択肢でも負担の大きさが変わります。

あわせて確認できる公的情報:IPA「AIの利活用、AIによるDXの推進」